秋分の日

「このままいくと一階のまんじゅう屋はつぶれます。」
ビルの大家さんに家賃を払いに行ったついでに僕は余計なことを言ってしまう。
方向修正すれば間に合うと思って言ってみてしまったのだけれど、
大家さんが急に僕に対して説教を返してくる。

「自分の仕事に一生懸命であれば人の心配をする余裕などないはずです。」
大家さんは言う。
気を抜くとこの大家さんは時々こういうことがある。

そういえば僕はなんでまんじゅう屋さんの心配なんてしていたんだろう。
他にも気付けば僕はいろんなことを心配していた。
やさしいからではない。
他に原因がある。


お彼岸は霊園に散歩に出掛けたほうがいい。
今日、人々はいっせいにお墓参りをする。
どのお墓も色とりどりの新鮮な花が供えられ霊園は花咲く庭園のようになる。
ベンチに腰掛ける。
一つ一つの花を観察していたらきりがないほどここは広い。


僕は福岡と島根でいくつかの相談事にのってきた。
それはとても重要な相談事であったうえに、簡単な相談事でもあったので
僕はそれらを解決しようとすると同時に、
自分自身が如何に複雑で深刻かについて気付いてしまった。


そういうわけで僕は小平霊園のベンチに座って大家さんの言葉を思い出している。
僕は僕自身ともっと向き合う必要がある。


入り口で買われた花々は霊園全体に統一感を持たせて蛍光色に発光していた。
まるで入り口の花屋の個展会場のようだった。素晴らしいと
入り口に伝えにいこうとしてやっぱりやめた。


僕は多分、しばらく余計なことは言わない方がいい。
それは描けばいい。