フランソワポンポン

僕は閃き待ちをしていた。
僕の閃き待ちだった。
オブジェ作品を使った、約一分間の映画のシナリオ。
それはたった一分間の閃き待ちでもあり、一生分の閃き待ちでもあった。
そのうち閃くだろうと思っていたらそうでもなくて多摩動物園は平日なのに遠足で賑わっている。
僕は一分間に一億年の縮図を詰め込もうとしていた。

マレーバクが走りながら鳴いている。
サイの噛み砕いた果実の汁が飛び散る。
濡れた象の鼻が手のひらからりんごを吸い取った。
そして僕はとくに閃かなかった。

監督から電話が入る。
電話に出たとたん、僕は突然一気に全部閃いていた。
完璧なのがひらめいた。
お風呂の線が抜けて流れ出す水のように
僕はただ朗読するようにそれを伝えた。

タイトルは好きなフランスの彫刻家の名前からとった。
shortfilm「フランソワポンポン」
来年の春に向けて制作がスタートした。

僕の宇宙の縮図が一分間に詰まっている。



僕は決して涙を流さないので、その変わりに鼻水が止まらない。
風邪ではない。