電話帳には日曜でも見てくれる病院は一件しかなかった。
そこで僕は少し離れたそこへ向かうことにした。
落ち葉が風車のように回転しながら落ちて来る。
色とりどり葉の上を僕は歩く。
処方䇳に2つの果実が添えられていた。
「柚子です。」
その老人の医師は言う。
僕はこういう医者を捜していた。
風邪を治す間、僕はその黄色い果実を5枚のキャンバスに描いた。
「柚子です。」
2度目の診察に来た僕は5つの絵を見せる。
医師は目を大きく開いて僕を見た。
そしてゆっくり立ち上がると無言で僕の横を通り抜け待合室へと歩いた。
「柚子の絵です。」
患者の一人一人に見せ始めた。
薬よりもゆずが必要である場合もあることを知っている彼は
薬よりもゆずの絵が必要である場合があることも知っている。
急に待合室が個展会場のようになってしまった病人顔の僕は、
顔が見えないようになるべく逆光の立ち位置を維持しながら
人々に会釈した。
「23日アトリエでお待ちしております。」
僕は言う。
僕もまた、薬よりも僕の絵が必要である場合もあることをよく知っている。