最初の1日

意識しなくても今日は昨日までの続きにある。
昨日までの僕を毎日捨てる。

昨日までの軌道をなぞらなくても、僕はちゃんと引き当てることが分かった。

神経衰弱でつい同じトランプばかりめくってしまうように。


朝、ドアを開けたと同時に、玄関の上のすずめの巣からヒナが転げ落ち、
僕を踏み台にしてそのまま巣立って行った。
僕を踏み台にしたのだからかなり高く飛べると思う。

朝8時、咲哉をチャイルドシートに乗せて保育園へ向かう。
咲哉は僕に似て自分にとても自信を持っている。
咲哉は凄いよ。と毎日自分で言っているのでそれが分かる。
僕と同じで原因不明の自信の泉が体内に宿っているらしい。
そのことをとても嬉しく思う。
自信を持った僕たちは沢山の子どもや先生やお母さん達におはようを言いながら別れる。

保育園を後にして、水筒に水を入れて森へ向かう。
森の中で朝顔を育てている。
ベランダではトマトのカーテンを作っているので、朝顔は地球を植木鉢にすることにした。
森に植物を植えないで下さいと誰かが書いてあるけれど、それはその誰かが決めることではない。
つるの先をうまくコントロールして、時間をかけて彫刻作品へと仕上げて行く。
雨が降ると水をやりに行かなくても安心なので、最近は雨も嬉しい。

朝顔の先端をあやつる為、雨で湿って夏の匂いのする森の木に登る。
大勢の蚊が僕の邪魔をする。
木に登るだけでも大変のなので蚊の相手はしていられない。
どんどん血を吸われてとても悔しい。
それでもそれ以上に悔しい思いを僕はたくさん知っているので蚊くらい何とかなる。

コンビニで作品のカラーコピーを取っていると、
順番待ちをしていたおばちゃんからサインを欲しがられる。
コピー機から出てくるものを見ていると突然僕のサインに価値が出る予感がしたらしい。
たぶんそのサインに価値は出ないと思うけどだいたいあたっているので正解ですと答える。
一枚余分にコピーしてサインを入れて渡した。
店員も欲しそうにしているのが分かったけど、気付かない振りをして店を出る。

来春の島根県立美術館での個展は僕が少し油断した隙に延期になった。
そのかわりにこれから25日以内に島根で素敵な何かをすると思う。
個展を楽しみにしてくれていた方々がもしいたら新聞を良く見ていて欲しい。


17時、咲哉を保育園に迎えに行く。
帰りはいつも多摩湖で鯉を眺める。
東大和市には大きく分けて鯉にエサをあげるおばちゃんとあげないおばちゃんがいる。
僕たちはエサをあげるおばちゃんの方をどちらかと言えば気に入っている。
エサをあげないおばちゃんも嫌いではないけど、出会うと鯉にエサをあげないで下さいと言われるので、いちいち2歳児から鯉にエサをあげる自由を奪うことの将来への影響まで考えた上での発言かについて、議論をしなければならなくなるので少し面倒になる。
今日はあげるタイプのおばちゃんと鯉以外にも鴨やカラスとも触れ合った。


今日も僕は今日からの最初にいる。


森に植物を植えることも、鯉にエサをあげることも、どういう作品をこれから作るかも、
まだ何も正解が決まっていない最初に。