2杯の森と時間の外側

爪の間に土が入り込んで指がぼろぼろになるまで僕は地面を掘った。
こんなに夢中になって地面を掘ったのは子どもの頃以来だと思う。


一年前、Art Plant2011の実行委員に僕の野外展示が見たい。と言われた。
その人からとても情熱が感じられたので、もちろん僕はやると言った。


僕は普段からキャンバスのなかに景色を作っているので、
それをキャンバスの外でやれば良いだけのことだとそのときは思った。
僕がその場で選んで触れたものは全て作品に変わる。


ところが実際にやってみると絵の中と違って、簡単に池は作れないし、鯉は泳がせられないし、滝を流すことも、洞窟を掘ることも、雪を降らすことも、花を咲かすことさえ困難なことが分かった。僕のやりたいことはどれもディズニーランドを作るみたいにお金のかかることばかりだった。


爪の間に土が入り込んで指がぼろぼろになって気持ちが折れるまで僕は地面を掘った。
外でたった一人でこんなに夢中で遊んだのは子どもの頃以来だと思う。
同じ泥遊びが子どもの頃の僕とは全然違って信じられないくらいパワーアップしているので素晴らしく楽しい。
あの頃出来なかったことが今は出来る。


セミの幼虫が歩いていたので、作品に掴まらせると羽化を始めた。
僕は初めて産まれたての白く透明なセミを見た。

新しい力を身につけた時の喜びを僕たちは心に染み込ませた。


「あの頃出来なかったことが今は出来る。」

と羽化を終えたセミは言った。

と未来の僕が巨大な公園の景色を作りながら言うかもしれない。



人生の分岐点はいつだって今日かもしれないし今日であるべきだと思う。