見えない広場

新緑の中を泳ぐように西武線が進む。


「見えない広場」


オペラシティでの展示が決まる前、

僕の毎日は、試合に呼ばれてないのに市民プールで一人もくもくとオリンピック選手になりきって世界記録に挑むような日々だった。

そんなある日、こんな妄想の重圧で世界記録は生まれるはずはない。と急に怒りが湧いてきた。

試合に出させてくれさえすれば僕は記録を狙える。
と僕はオペラシティへ言いにいった。


そしてオペラシティの展示が決まり、
その展示は新作を生み出す為の手段であったので展示プランにこれから描く
まだ存在しない3つの新作のタイトルを書き入れた。
展覧会のリーフレットにそのタイトルは載せられるので後戻りは出来ない。

「始まりの終わり」  2013年 162.0cm×162.0cm
「恋する絵画」     2013年 162.0cm×162.0cm
「見えない広場」   2013年 162.0cm×162.0cm

予言みたいだ。

こんなに絵を描いてるのは生まれて初めてだと思う。
おかげでさらさらの血液みたいに入り口から出口までがだいぶスムーズに流れるようになって来た。

2つめまでの新作が今週中に描き終わる。
この時点で当初の目的である記録は更新されている。
とか言いたくなるのをぐっとこらえて、
この2つを仕上げてもう一枚描く気力が残っているだろうか。
残っているはずがない。
余力なんて残してはならず、今は今に全て詰め込まなくてはならないのだから。

と不安になることは予想済みで、来週の島根行きの飛行機のチケットを予約してある。
それ以外は本当に何も決めてない。
描きたいものは全て前の2作に吸い込まれる。

それでも頑張る必要はなく、僕は僕のベストコンディションを保ち続ければ良い。
そうすればあとは僕の体がかってに自然現象を起こしてくれる。

僕は孤独なプールでそういう自分作りだけはとてもとても頑張ってきたのだから。

記録のさらに記録を更新。

今を予想したタイトルの通り完全に「見えない広場」に向かって僕は飛び立つ。

ただしそれはかつての孤独なレースではない。
ちゃんと負けたり勝ったり出来る試合の中に僕はいる。



と日記に書いて僕は気を引き締め直した。