「君と僕のいる地球」
2015 135.0cm × 660.0m ケント紙,鉛筆,クレヨン
場所 西ヶ原東保育園 東京都北区
主催 一般社団法人アーツアライブ
5歳児21人と2時間のワークショップで制作
「僕は先生ではなくて絵描きさんです。
この中で絵描きさんになりたい人はいますか?」
と聞くと沢山の手があがった。
保育園の先生たちが今日はプロの絵描きさんが来ると子どもたちを上手に盛り上げてくれていたらしく朝から子どもたちはみんなわくわくしていた。
「それでは、今日は特別に絵描きさんになる方法をみんなに教えます。
例えばこの教室の壁に落書きをしたら普通は怒られます。
でもその絵があまりに素晴らしかったらどうでしょうか?
怒られるだけでなく、褒められたり喜ばれたりもします。
それくらいの絵が描けたら今日から画家です。
今日はそれくらいの絵を描いてください。
これが画家のなりかたです。」
事前に保育園の先生から自画像をやって欲しいという依頼があった。
そこで僕はこの機会にどうしても描いてみたい作品を思いついた。
画材は子どもたちの使い慣れた紙と鉛筆とクレヨン。
子どもたちがわくわくするような仕掛けや画材は何もない。
特別な事はせずにシンプルに純粋にただ「子どもたちの描く力」を引き出す。
そして今回は僕自身は全く描かないし手伝わない。
本当に僕の仕事はただ子どもたちの力を信じて任せるだけ。
子どもたちは信じられないくらい凄く頑張ってくれた。
僕が「もう十分頑張ったから完成にしてもいいよ。」と声をかけてもまだやめず、
頑張り過ぎて熱とか出ないか心配になった。
でも中には始まる前に先生に心配されていた子どももいて、
予想通り開始15分でその子はくじけた。
「僕はいつも何をやっても失敗しかしない。今日も失敗する。もう嫌だ。」
とその男の子は言った。
失敗してもいいよ。失敗してもいいから頑張ろうよ。とは僕は言いたくない。
それは他のやさしい誰かが必ず言ってくれるので任せよう。
これは僕にとっても本気の作品制作であり気軽に失敗されては困るのだ。
失敗なら僕がいなくても出来るので他でやってもらおう。
「それなら今日が大チャンスだ。なぜなら今日は必ず成功するから。」
と僕は男の子にアドバイスした。
でもごろごろ寝転がったりしてなかなか進まない。
男の子はもう失敗したと言い、僕は成功していると言い張った。
この子があきらめるかあきらめないかで作品は全然違ったものになる。
今日あきらめるかあきらめないかで将来は全然違ったものになる。
いい加減それを分かって欲しいと僕があきらめかけた頃、僕が目を離した隙に男の子は変化していた。
保育園の先生に一生懸命に励まされながらも男の子の絵はスランプを突き抜けた。
突き抜けた先の世界へ行った男の子は止まらなくなった。
最終的にはなんと、その子が今日一番頑張った。
給食の時間が来ても最後の最後まで一人でまだ描き続けた。
「今日のこれも失敗かな?」
と僕は男の子に聞いてみた。
失敗か成功かを他人に決めさせてはならない。
いつだってそれを決める権利は本人だけが持つ。
僕は男の子の審査結果を待った。
男の子は笑顔で首を横に振った。
「そうだよね。どう見てもこれは大成功だ!」
と僕は拍手して言った。
その場にいた誰もが心から拍手した。
「今日は凄く楽しかった。」
と男の子は言った。
あんなに辛そうにしたくせによくそんな事が言えるね。と僕は思った。
でもこれが本当の楽しいという気持ちだと僕も思う。
ちょうどその時、僕も同じような気持ちだったから。
僕たちの辿り着く場所はまだまだ全然こんなもんじゃない。
本気を出せばもっといける。
2時間というわずかな時間で描いた作品ですが、この作品は僕にとっても最高傑作の一つとなりました。
子どもたちにとっても僕にとっても、この2時間があるかないかでは未来が全然違ったものになりました。
感動しました。
ありがとうございました。