アジサイ

町の至る所にあじさいの花が咲く。僕はガクアジサイの方が好き。
花だけをみて歩くことにする。町中に散乱した文字は意識的に読まない。
病室では元気になった先生が退屈そうに本を読んでいる。
自分が何を話したのか覚えていられないから君が変わりに覚えておいてくれと言う。
先生が3回目の同じ話を繰り返し始めたところで僕は病院を出る。
SISEIDOGALLERYを覗いて、パスタを食べて、銀座の町を出る。
お茶の水の大聖堂では赤や白のマントを羽織った牧師たちが歌い、
博物館には動物のハクセイが生け花の様にそびえ立ち、
東京タワーの上から見る梅雨空は、僕を雲の上へと導いている様に思えた。
それからHIGUREGALLERYでの打ち合わせ。
4年前、ここでの個展がきっかけで僕は海外へ行くことになった。
あの頃と今の僕はずいぶん違う。作品の内容はもちろんだけど、あの頃理解できなかった物事が今の僕には理解できる。
そろそろだね。って僕は思った。
明日は岡本太郎美術館で、明後日は大江戸温泉のpartyで、週末のアトリエには僕の絵ではなくて手相が見たいという占い師が来る。
なのに微熱が下がらない。
間違って近所の小児科に行ってしまった。
子供たちに囲まれて、せめて正しい患者の見本になろうと決める。
注射なんて怖くないし、泣く必要など何処にも無いことを態度で示す。
そしてまた花だけを見ながら家に帰る。
今描いている絵のタイトルは「95羽の小鳥と赤いsofa」
亜矢子が小鳥が多すぎると僕に言う。僕は小鳥が大好きだからそれに気づかない。
大丈夫だよと僕は全ての意味を込めて言う。
先生のことも、個展のことも、手相も、風邪の具合も、小鳥が多すぎることも全部ね。