1万円の大きなキャンバスをアトリエに運ぶ。
1万円の服を買うよりも、帽子を買うよりも、食事をするよりも、温泉につかるよりも、1万円で出来ることの何よりも、僕はこの絵が描きたいのだということになる。そこにいつも迷いは無い。
100万円の制作費をかけて作品を仕上げる。
100万円で車を買うよりも、シャンデリアを買うよりも、旅行へ行くよりも、100万円で出来ることの何よりも、僕はその作品を完成させたいのだろうと思う。そこにも絶対迷いは無い。
1億円をかけて展覧会を開く。
1億円で家を買うよりも、宇宙旅行へ行くよりも、寄付して沢山の命を救うよりも、1億円で出来ることの何よりも、僕は展覧会を通して世界に届ける。それもきっと迷い無くやれる。
(命を救うよりも死ぬ前に絵を見せたいと僕は思う。)
(宇宙旅行へ行った方が素敵な絵が描けるならそっちを選ぶ。)
一筆一筆が確固たる自信を蘇らせる。これさえあれば他にはなにもいらない。
止まることが死を意味する魚と同じ。
羽ばたくのを辞めると落下する鳥と同じ。
呼吸するように僕は描き続けなければならない。