朝起きてアトリエに行く。
そこに赤を塗るべきだと思う。
その前に朝食。
トーストにトマトとチーズを乗せて焼く。
コーヒーを飲みながらアトリエへ行く。
そこは緑を塗るべきだと思う。
でもさっきは確かに赤だと思ったはずなのだけどその理由が思い出せない。
保留にする。
白のバスタブにお湯を張る。
白に透明を注いだはずなのにいつもお湯は薄い青色をしている。
水中では全ての物が青いレンズの中にある。
空気の中で水中の色をした絵を描きたいと僕は思う。
お風呂から上がる。
そこには絶対青を塗るべきだと思う。
この時点で僕は3人もいる。
どれを信じるべきか確かめに散歩へ出掛ける。
「僕達は水中にいるなんて思った事無いよ。」
通りすがりのクラゲが僕に言う。
僕達にとっての空気は、魚にとっての水であり、魚にとっての空気は、僕達にとっての水だった。
「空気でもあり水でもある。」
僕はとても抽象的な感覚を忘れないようにとりあえず声に出してみる。
空気の中に居ながらにして、水の中にいる、ある場所へたどり着く。
アトリエに戻ると確固たる亜矢子が絵の前に立っていた。
「そこはこれから透明で塗るよ。」
確固たる声で僕は言う。
「そうなんだ。」
亜矢子は言う。
「そうなんだ」を心の中で細かく分析する。
違和感は何処にも無い。
ただ浄水器のフィルターが起源切れになっていたのを思い出した。
明日は新しいのに取り替えよう。
そして僕はキャンバス上の透明度をもっともっと上げていこう。