First Water

グリーンランド沖で氷山へと地上を託した水が海底2000mへ一気に沈む。

「つまり、原動力となるゴムが必要なんだ。」
楽家は言う。

幾つかをやり遂げた直後からこの2日間、僕のネジはくるくると手応えの無い空回りを続けていた。
「つまり、原動力となるゴムが見当たらない。」
僕は言う。
東急ハンズに行けば売ってるかもしれない。」
やさしい音楽家は僕を励ます。

武蔵村山にある羽田空港のように巨大なホームセンターの動く歩道を歩いていると、ひよこが沢山売っていた。
育てると90%の確率で毎日おいしい卵を生んでくれるらしい。
親から卵を奪えない僕の部屋はひよこで埋め尽くされる。ひよこに指をつつかせながら考えていると、ヤドカリが沢山売っていた。
ガウディの建築物のような宿を背負って歩いては休む。
手の上を歩かせてその原動力のゴムについて研究していると約束の時間が来たのでホームセンターを後にする。

入り口の絵を届ける。
「海底2000mの世界を見る事が出来るのはマッコウクジラだけなんだ。」
水の発明家が僕に依頼した理由を分かりづらく伝える。
さっきまでひよこと遊んでいた僕はグリーンランド沖の水のように一気に深海へと連れて行かれる。
僕は比喩的にそこに生息し、マッコウクジラは現実にそこに生息し、水の発明家はそれを知っている。
First Waterとは一流である事を意味する。


僕のネジは巻かれた。


3000年間の深海の旅を終え、First Waterとなった水はハワイ島沖でいっきに湧き上がる。