絵筆と彫刻刀

僕は1.5倍の大きさで外へ出る。
その分、家に帰ると0.5倍の大きさになる。

彫刻刀で削るには石があまりに固すぎて0.5倍の小さな僕はだんだん悲しくなってきた。
パリでフランスパンがあまりに固すぎた時も同じように僕は小さく悲しくなったことを考えていると。

うっかりして手に彫刻刀が刺さって涙まで出そうになったのでテレビを着ける。
「大人も楽しめる町づくりが大切だ」と東京ミッドタウンは言う。
「楽しめる大人作りがもっと大切だ」と僕は止血しながら言い返す。
つまらないのでテレビを消す。

原宿へ行ってドラリオンというサーカスに入る。
動物はいなかったけど、人間のレベルが想像を超えていた。
重力をあやつる人間は地面への激突を恐れず宙を舞う。
巨大なテントの中の一番後ろの席で僕は自分の可能性について考える。
あのように空中を舞う事は僕には無理だという結論に至る。そして。

僕は絵を描かなければならない。

絵筆のかわりに彫刻刀を握っていた期間は終了。
僕はそろそろ絵が描ける。

僕は絵筆を握ると2倍の大きさになる。