花火とアジサイ

花火職人は今日までの経験の何もかもをシンプルな一つの球体に詰め込む。
さらにリスクをしょって新しい試みも詰め込む。
それはとても難しい。

もう気付かれているとは思うけど僕がこの次に何を描くのかはとても難しい。
ただ自由に描けばいいというものじゃない。

花火職人は全てを注いだ一つの球体を完成させる。
それを打ち上げれば世界を変える威力さえ持つと自信に満ちている。
完成させる為に命すら削ってみせたからね。

僕はいつでもこれが最後の絵になってもいいから最も良い絵を描きたいと思う。
描き終えるとやっぱり最後にしたくは無いので今の苦しみがある。
それは僕の望んだ事でもあるのでちゃんと引き受ける。

花火職人は打ち上げる場所を探している。
絶対安全とはいえないのでなかなか許可が下りない。
基本的に断られる。
ようやく見付けた場所は砂漠のような場所で誰も見てはくれそうに無かった。
悔しくて涙が出そうになった。

僕は海底の洞窟に気泡を貯め過ぎている。
海底火山の映像を繰り返し見ることにした。
見ている最中、地震が起きたので僕ははっきりと海底火山をイメージする事が出来た。
きっと成長出来る。

「そんなに魂を削っても打ち上げる場所など何処にも無いよ。」
花火職人は言う。
「砂漠に人を呼べばいい。」
僕はそう言ったけど、花火職人の気持ちは痛いほど分かっていた。
でも描くしかないからね。

誰もいない砂漠の真ん中で大きな花火が打ち上げられた。
人工的な灯りの無い無音の暗闇で。

ベランダのガクアジサイが花を咲かせていた。
梅雨が来る。