教祖対談

代わる代わる様々な宗教勧誘の使者がアトリエに来る。
新聞の勧誘の時とは違って僕はちゃんと耳を傾ける。
決して否定はしない。
ノートルダム大聖堂のような様々な宗教芸術を生んだ力に尊敬の念すら覚える。

使者は名乗らない。
ほぼ10割に近い使者が教祖の言葉を借りて僕に話しかける。
そのたびに僕は使者を通じて教祖と対談することになる。
「現在のひどい世の中から解放される時は必ず訪れます。あなたは現在、悲しみや憎しみをお持ちですか?」本を片手に使者は言う。
「確かにひどい世の中かもしれません。だけど僕にはそれが必要でもあります。悲しみも憎しみも今の僕にはありません。」
僕はたぶん嘘をつく。

「あなたの眠った力を引き出すことが出来ると思うのです。
出来れば一度教会の方に足を運んでいただきたい。」使者は言う。

「魅力的ではありますが僕はそこに頼る訳にはいきません。
僕は教祖の視点で作品を生み出す必要があるんです。」僕は言う。

すると使者はカバンの中からパンフレットのようなものを取り出す。

「ここに書かれている言葉の中には芸術に通ずるものが数多くあります。あなたはその言葉にきっと救われるはずです。」使者は言う。

「大変恐縮ですがこれが僕を救うのではなく、僕がこれを救えなければ僕は失われてしまいます。」
僕は言う。

僕の小さな哲学など通用しないことは分かってはいるけれど僕はそれを試さずにはいられない。

「丁寧に聞いてくださってありがとうございました。また来ます。」使者は言う。
「お誘いありがとうございました。またお待ちしております。」僕は言う。