花火

玄関のドアを開けると一羽の雀がたおれていた。
意識はないけど眠っているようにも見える。
僕は熱中症と診察した。
牛乳石けんの箱に入れて一緒に出掛ける。

多摩湖の森を車でドライブしていると
廃墟だと思っていた山奥の料亭の灯りがついている。
ちょうちんをたどって朽ちた建物が並ぶ奥まで進む。
赤い母屋のような場所にたどり着く。
赤く熱した木炭の遠赤外線で川魚や野鳥が焼かれている。

建物の中心の銭湯の番台のような場所におばちゃんが一人座っている。
その後ろでは白い三角巾をまいた沢山のおばちゃんが忙しそうに働いている。
朽ちたまわりの建物とは対照的に
みんな心からとても楽しそうに働いていて僕に笑顔であいさつする。
「いらっしゃいませ。」
おばちゃんが僕に言う。
「ここに絵を展示することになりました画家の池平徹兵です。」
僕は言う。

ここでは全ての客は森に散らばった一戸建ての個室に案内される。
僕は虎の剥製が飾られた一番大きな建物に案内された。
僕は始まりそうな物語の続きにわくわくしている。

息を引き取った雀を近くの小川に流す。
今日は凄く暑いし僕なら土に埋められるより、水に流される方が嬉しいので。
牛乳石けんの箱船が小さな雀を下流へと運んでいった。

家のお風呂に水を溜めて足を浸しながら花火大会を見ていると
子どもを亡くした雀の夫婦も前の電線で花火を見ていた。
蚊に刺された箇所にウナコーワをぬる。
かゆみと感情と花火は夜の闇に消えた。