余力

一見死んでいるけれど、掴んで空に投げると実は、
9割のせみが羽ばたく余力を残している。

僕が掴んで投げなければ、そのまま死を待つつもりだったらしい。
もう一回羽ばたけば寿命は縮まるかもしれないけれど、
そこで寝てたって良いことなど一つもない。

「余力を残してはいけない。」
道路脇で寝ているせみに僕は言う。
散歩しながら僕はせみの死骸をいくつも空に投げる。

新作の完成まであとわずか。
現時点で自己ベストは超えたと思う。

「余力を残してはいけない。」
ベランダで仰向けに寝ていたせみは僕にそう言い残すと、
最後の余力で雨降る空へ飛び立った。