パラグライダーと透明な深呼吸

僕は山頂で風を待つ。
急な斜面に立って景色を見下ろしている。
雲と雲のあいだに晴れ間が見えて、下に広がる緑の世界を照らしている。

濃い霧の細かい粒子に包まれた線香花火。
昨夜の闇と今朝の光。

透明な深呼吸。

斜面を一気に駆け下りる。
翼が空気をいっぱいに含み僕を強く後ろへ引く。
僕は走りつづける。

足が地上を離れる。
たんぽぽの綿毛みたいになる。
見えない空気の上を風と一緒に吹き抜ける。


「今回僕たちが飛んだのも作品制作の一環です。」
山小屋の人に音楽家が話す。
僕は空中の何処かの時点でそれをすっかり忘れていた。
「僕は画家です。」
僕は言う。
僕は着地する。


アトリエに戻った僕は夏の間に上った急な坂を一気に駆け下りる。
翼が空気をいっぱいに含む。
一度飛んだ僕に躊躇は無い。