井戸と空

だんごむしが服を脱ぐ。
脱いだ白いドレスを僕に奪われる前に全部口に入れてしまった。
アトリエのだんごむしは一回り大きくなった。

今日は初めから終わりまで個展会場に座ってみることにした。
絵を見る人の邪魔にならないようにじっと観察する。
散歩中に森の何処かに携帯電話を落としてしまったという女性がやってきた。
僕も一緒に散歩コースを探しにいくことにした。

森の中には表面がベルベットなキノコや、大きなドングリが落ちていて、
僕がそれをいちいち拾うので、
その女性の目も携帯電話を探すのを辞めていつの間にかドングリを探していた。
「実はもう携帯電話を探したいとは思いません。今日はもっと素敵な物を手に入れたようです。」
女性が僕に言う。
「そうではないかと僕も思っていました。絵を見に行きましょう。」

夜、アトリエに戻ると一回り大きくなっただんごむしが月を見ていた。
一年ぶりに天体望遠鏡をだしてクレーターを観察する。
井の中の蛙は空の高さを知る。」
だんごむしと僕は言う。