今日の上空

広い海辺の倉庫内に作られたステージに上がると、沢山の人がこちらを見ていた。
NHKの司会者が僕を紹介している。
僕はシャットアウトして大きなキャンバスの前にただ向かう。
フローリストが花を生け始める。


過密スケジュールの合間に洞窟へ向かう。
目的地の観光化された穴以外にも、いくつかの閉鎖された穴を見付ける。
立ち入り禁止のロープをくぐると縦穴の鍾乳洞が深く口を広げていた。
さびれた鉄階段を見えない闇に向かって降りていく。


同じステージ上にいる音楽家の音が高い倉庫の天井の窓に溶ける。
全てがシャットアウトされた僕にそれがとても遠くから届く。
昨日の洞窟の水流で冷たく冷やされた足がしっかりと僕を支えている。
大勢に囲まれたステージの中心で僕は世界の外にいる。


楽家の持参したヘッドライトの明かりを頼りに洞窟の奥へ進む。
すべすべの鍾乳石の上を裸足で歩く。
洞窟の闇は永遠に続くように思われた。
僕たちは一度も行き止まりを確認することはなかった。


帰りの飛行機が雲の上で別の飛行機とすれ違う。
着地地点に於いての計画を上空3000mで話し合う。
地下の記憶と今日の上空。


一生のどこかでいつかやらなければならなかったし、
やりたいとも思っていた重大な課題を一つ乗り越えた僕が東京に着地する。
明日から世田谷美術館