地中海の闘技場

僕は描くのをあきらめて海へ行くと泥を粘土の様にこね始めた
隣で亜矢子はそれを顔に塗ってパックを楽しんでいる

遠い昔画家になった事を思い出す
一つずつ歯車が増えた 又は増やした
その仕組みの分からない複雑さを楽しむように
一つの絵を描くのに何千もの歯車が回る


ゴッホの家の向かいに西暦一年の闘技場がある
観光客達が尖った柵の外からその素晴らしい建築物を眺めていた
柵の隙間に頭を入れると体が中に入ったので僕は振り返らずに中へ走った
そして僕はひとり2000年前の闘技場に立っている

牛の角は必ず僕を射抜く
かもしれないではなく必ず射抜く 僕にはそれが分かる


ピレネー山脈の麓の村で少女がキックボードに乗っていたので僕が見た事も無いアグレッシブな乗り方を見せてあげようとして激しく転倒した際に歯車がバラバラにはずれた

;僕はこれ以上壊れない;
牛に向かって僕は言う


僕は歯車を持たない画家になった
インスピレーションに触れた瞬間それを作品に変える事が出来る
その仕組みの無い手品を楽しむように

僕の中の水の要素が手に握った泥に具現化される
今は僕の中で何がどうなったのかは分からない
でも僕はたどりつく
時がたって今日の月日が体にしみ込む頃に