覆面のさらに覆面のすずめ

すずめ世界の文化が西洋化されている。
人間との距離が以前より近くなった気がする。
又は僕との間の距離だけなのかもしれない。
とにかく以前の日本では考えられないくらいの距離まですずめが近づいて来る。


「覆面調査員です。」
いつもアトリエのベランダに僕の制作の様子を見にきていたすずめが突然僕に言う。

「覆面調査員は名乗ってはいけないね。」
僕は言う。

すずめは期待通りの答えだというふうに満足そうな顔をして僕の肩に乗って耳元で囁いた。
くちばしは耳たぶに触れると温かかった。

「実は覆面のさらに覆面です。私たちはもっとずっと先をいっております。
 私たち覆面のさらに覆面はまず最初に依頼者を裏切って名乗ります。そしてたとえば表情の暗い店員 に対しては、素晴らしい笑顔だったと調査書に書くことを話し合いで決め、未来の素晴らしい笑顔を 予約するわけです。
 上司に怒られて作る笑顔より上司に誉められて作る笑顔が素敵であることは言うまでもありません。 それは依頼者の願いでもあり全て良いことだらけです。」


「僕の調査書には間違いなく偉大な画家であると書いてくれてかまわないよ。
 そういうことだよね?」
僕は言う。

「素晴らしく理解が早くて助かります。そういうことです。
 では調査書が嘘の報告にならないよう宜しくお願い致します。」
小さくかわいいすずめは一礼すると秋の空へ飛び立って行った。



僕の残した壁画がデートスポットになっていると連絡が入った。ライトアップされた夜の壁画の前でカップルは記念撮影するらしい。
それは久しぶりに鳥肌が立つくらい素敵な報告だった。順調に文化財世界遺産の辿る道のりを作品は歩きはじめている。

ここには載せていないけど実は広島県アストラムライン大塚駅まで行けば僕の巨大な壁画が見える。
それは東京タワーやエッフェル塔のようにいつもライトアップされている。

そのうちここでも紹介出来るかもしれないし出来ないかもしれない。