雪が町の汚れを吸い取ったみたいな景色。
2日後に岡本太郎美術館に搬入する映像作品をDVDに変換出来ずに僕は窮地に追い込まれていた。
「そういうサービスがコジマにはございません。」
フレッツ光と書かれた店員の服を見ていると胸に椎名という名札がついている。
「分かりました。では椎名さん、ここから先はあなた個人への仕事の依頼になります。
引き受けて頂けますでしょうか?」
無理だと分かってはいるけれど事情を1分にまとめて説明してみた。
「かしこまりました。ちょうど私は明日が休みになっております。私個人が池平さんにご協力させて頂きます。」
信じられない。
絶対に不可能だと思っていたコジマの接客マニュアルの壁を僕たちは突破した。
他の店員にばれないように商品を選ぶ演技をしながら同時進行で打ち合わせを進めた。
「データは明日中に必要です。今夜仕事に成功したら僕にメールをください。明日の13:00に西武新宿駅で受け取ります。椎名さん、これから先どんな時も僕とたぶん岡本太郎もあなたの味方です。」
店を出ると雪が町の汚れを吸い取ったみたいな景色。
まるでコジマという入り口から遠い世界を旅していたかのような気持ちになった。
「マニュアルの外へ出よう。奇跡はあちらこちらで待っている。」
日本全体に向かって僕たちは言う。